カジュアル着物のセレクトショップ、山椒庵と申します。
このページではカジュアルファッションとしての男着物にクローズアップします。
格やTPO、素材やメンテナンスの話は抜きに、どうやってコーディネートを組むかに特化した内容となっています。
色合わせや角帯選びに悩める着物男子の皆様の一助になれば幸いです。
○目次
●男着物とは【女着物との比較から】
●着こなし【構成の視点から】
・着流し
・羽織姿
・袴姿
・羽織袴姿
●コーデの組み方
・前提として
・錯視効果という視点
・色味の視点
●お仕立てとプレタ着物【注文服と既製服】
●リユース着物という選択肢
●山椒庵について
男着物とは【女着物との比較から】
洋服、例えばデニムのパンツを想像してください。男女でサイズやデザインに差異はあれ、二股に分かれた筒型の構造、そこに足を突っ込むという着用法は同じです。
着物は男女で着用法が違います。女性の場合、腰の辺りで布をダブらせる「おはしょり」を作って着用します。男性の場合は「おはしょり」を作らない「対丈」で着用します。
他にも「衣紋」を抜くか抜かないかという着用法の違いがあり、「身八つ口」の有無や「衿」の仕立てなどの構造の違いもあります。
生地のデザインではなく、着用法と構造に違いがあることがお分かりいただけたでしょうか?
男物として販売されている反物を女物として仕立てればそれは女着物であり、女物の反物でも男物に仕立てれば男着物になります。
着こなし【構成の視点から】
アウターの有無、アイテム数による形態の違いから以下の4つに大別できます。
・着流し
・羽織姿
・袴姿
・羽織袴姿
●着流し
着物(長着)に帯を締めたシンプルなスタイルです。カジュアル着物のベースとなるスタイルです。
浴衣の場合は素肌の上に着用しますが、着物(長着)の場合は襦袢などのインナーを着用します。
アイテム:インナー+着物(長着)+帯
●羽織姿
着流し+羽織のスタイル。
羽織は洋服のジャケットにあたるアウターで、前を閉じない開放的な構造が特徴です。
アイテム:インナー+着物(長着)+帯+羽織
※厳密には羽織紐も必要となります。
●袴姿
着流し+袴のスタイルです。
お笑い芸人の「すゑひろがりず」さんの格好や、いわゆる書生スタイルなどがこれにあたります。
アイテム:インナー+着物(長着)+帯+袴
●羽織袴姿
着流し+羽織+袴のスタイル。
礼装の紋付羽織袴などもこれにあたります。
フォーマルなイメージが強い羽織袴ですが、普段着として着用しても何ら問題はありません。
写真ではカジュアル感を演出するためにインナーをバンドカラーシャツにしています。
アイテム:インナー+着物(長着)+帯+羽織+袴
コーデの組み方
●前提として
極論、公序良俗に反さなければファッションは自由です。
着ている本人が満足しているのであればそれに越したことはありません。
ここで紹介するのはあくまで考え方の1つとして、参考までにご覧いただけますと幸いです。
●錯視効果という視点
バイカラー錯視
同じ大きさに同じ2色の塗り方でも、塗り方次第で縦横の長さが違って見えることがあります。
これはバイカラー錯視と呼ばれるもの。
洋服の着やせテクニックとしてよく紹介されるものですが、男着物にも応用可能です。
具体的には羽織姿。
長着(着物)とコントラストのある羽織をチョイスすることで、着流しより体を細長く見せる効果が期待できます。
補足として、袴姿が横に太く見えるかというとそのようなことはないかと思います。
むしろ、女性のロングスカートのように腰位置が高く見え、足長効果が期待できるかと思います。
ミュラー・リヤー錯視
AとBの縦線は同じ長さですが、左の線は長く、右の線は短く見えます。
これはミュラー・リヤー錯視というもので、丸襟よりVネックシャツの方が縦のラインが細長く見えるというのもこれにあたります。
着物の場合も、襟元がVの字になるのでこの効果が期待できます。
襦袢の他に、タートルネック、シャツなどのインナーがありますが、ミュラー錯視を意識するのであれば長着(着物)とコントラストのある色味にすることがオススメです。
●色味の視点
色を大別すると、色味のない無彩色と有彩色の2つに分類することができます。
無彩色とは黒・グレー・白など。
これらのグラデーションで組んだコーディネートはモノトーンコーデと親しまれています。
さて、このトーンとは何か?
トーン
トーンとは明度と彩度を組み合わせた色の捉え方です。
ペールやブライト、ビビットなどは一度お耳にしたことはございませんか?
黒・グレー・白といった明るさの度合いが明度、鮮やかさや色みの強さの具合が彩度です。
画像はトーンマップと呼ばれるもので、上側ほど明度が高く、右側ほど彩度が高くなります。
トーンマップ内の円は色相環と呼ばれ、赤・黄・緑・青などといった色合い(色相)を円状に並べたものになります。
前置きが長くなりましたが、トーンが近いものや同系色で合わせると統一感のあるコーデになり、トーンが遠いものや補色や対照色で合わせるとメリハリのあるコーデとなります。
弊店トルソーコーデから、着物(長着)と羽織の色みのみの関係を整理したのがこちらの画像。
左上は同一色相配色、下列真ん中は補色色相配色と呼ばれる色み(色相)ベースの色相配色という考え方です。
上段真ん中のようなトーンの距離で考える方法はトーン配色と呼ばれます。
詳しく話し出すと際限がなくなりますのですが、統一感かメリハリかという方向性があるととどめていただけたら幸いです。
70:25:5の法則
「コーデは3色に」という言説を聞いたことはありませんか?
いわゆる「70:25:5の法則」と呼ばれるもので、ベースカラー(70%)、メインカラー(25%)、アクセントカラー(5%)の3色で組むとバランスのとれた配色になると言われています。
羽織姿の場合、長着(着物)がベース、羽織がメイン、帯や羽織紐がアクセントカラーに当たるかと思います。
繰り返しになりますが、ここで紹介するのはあくまで1つの考え方です。
4色以上使う配色もあります。全身ブラックでまとめて立体感を出すという考え方もあります。羽織は別の色に、着物(長着)や帯や足袋を同色にしてバイカラー錯視を最大限引き出すというテクニックもあります。
錯視や色味の観点は男着物コーデを組み立てるための策です。策に溺れず、男着物を楽しんでいただけましたら幸いです。
お仕立てとプレタ【注文服と既製服】
どんなにいい高級ブランドのスーツでも、サイズが合っていなければ不恰好というもの。
着物にもそれは言えること。しかし、クラシックスーツに比べれば男着物のサイズ感はおおらかなものと言えます。
見栄えに大きな影響を与えるサイズ感を中心にお仕立てと既製品のメリット・デメリットを整理します。
●お仕立て
お仕立てはスマホゲーでいうところの確定ガチャです。生地代+お仕立て代(2~3万ぐらい)を課金すればジャストサイズの着物が手に入ります。
体にフィットした着物は着崩れしづらく、生地の持つ着心地の良さがより味わうことができます。
また、体型の変化があったとしても仕立て直しをすることができます。
一生物の衣服が手に入るという意味で数万円の仕立て代が高いと思うかは人それぞれだと思います。
●既製品
仕立ての場合はオーダーから数カ月かかるのが基本ですが、既製品は買ったその日に着用できます。
サイズ感はメーカー次第。所感ですが、普通体型からガッチリとした体型むけの身幅がゆったりとしたものもが多いように感じます。
余り布を縫い込まない洋裁による縫製がほとんどで、仕立て直しができないことも珍しくありません。
一方で、既製品はメーカーの企業努力で仕立て代を下回る比較的安価な金額に収まっていることが多いです。
リユース着物という選択肢
流通量こそ少ないですが、男着物のリユース品といったものが存在します。
リユース着物のメリットは、お仕立てでチョイスされるような良質素材の商品が比較的安く手に入ること。
また、プレタ着物と同じく買ってすぐ着られる上、お仕立て品のように仕立て直しや仕立て替えなども可能です。
*素材である反物の幅によっては難しいこともあります。
ユニークな柄や珍しい素材のものも少なくありません。
サイズはどれも一点物のためマチマチですが、既製品にはない長身痩躯だったりガッチリ体型な方にジャストサイズなものなどが出てくることもあります。
しつけ糸付きの未着用品という実質新品のようなものが出てくることもあります。
山椒庵について